日本政府の「アジェンダ21」に対する

CASA提言の概要

1994年5月 
 
 

1 日本政府の「アジェンダ21」に対する概括的検討

  1. 今回の政府素案の作成過程においても、市民やNGOが参加する機会は与えられず、市民やNGOが意見をいう期間は3週間に限定された。また意見を出しても意味のある修正はまったくなされなかった。
  2. 日本政府の「アジェンダ21」国別行動計画の内容には、以下のとおり問題がある。
    1. 「環境の有限性」についての認識が不十分であること。
    2. 公害現象の原因となった「経済と環境の調和思考」や「大量生産・大量消費」へ反省が弱いこと。
    3. 生態圏システムの永続性を維持しようという考えが欠落していること。
    4. 公害被害者や女性の権利の確保、次世代への配慮、また途上国へ貧困への配慮にも欠けていること。
    5. 政策決定システムの不合理性を改める観点が弱いこと。
  3. 日本においては、なによりも縦割り行政の弊害をなくし、環境保全が経済政策などの政策に優位することを明確にすることが必要である。環境アセスメント制度が法制化されていないことは、永続的開発にとって致命的な欠陥といってよい。国民に開かれた環境管理システムを確立こそ、環境保全の基礎であることが確認されなければならない。

2 開発途上国との協力のあり方

  1. 日本政府の行動計画は、GATT体制が「開発途上国」の「持続可能な開発」をもたらし、南北格差と環境問題の克服に貢献するという自由貿易万能主義に貫かれている。自由貿易こそが南北格差を固定・拡大し、環境問題を悪化させてきたのであり、GATT体制はこの北側諸国に有利な構図を固定する。
  2. 日本政府の「アジェンダ21」には、以下の視点が盛り込まれるべきである。
    1. GATTの原理を貿易拡大から人間優先、「環境優先に組み替えるべく世界に訴えること。
    2. 環境回復コストを課徴金として課す新しいシステムの構築とその世界的認知を目指すべきこと。
    3. 食料安全保障を、国際ルールとして確立するよう努めるべきこと。
    4. ODAの情報公開、手続きの透明性、総合的評価制度、それへのNGO参加など、資金協力の運用体制を改めること。

3 化学物質と有害廃棄物の健全な管理

日本政府の「アジェンダ21」には、以下の問題がある。
  1. 化学物質のリスクアセスメントを大幅に促進する刻に研究体制の設立が明示されていないこと。
  2. 各分野にまたがる総合的なリスク提言計画が提言されていないこと。
  3. 有害物質と有害廃棄物の指定品目数の大幅な拡大が意図されていないこと。
  4. 有害廃棄物の主要な発生源である企業の責任が明確にされていないこと。
  5. 既存農薬の安全性の見直しと規制強化の位とが示されていないこと。
  6. リスクと汚染に関する情報の公開とリスク管理への市民参加が考慮されていないこと。

4 持続可能かつ公平な開発に向けた女性の役割

  1. 日本政府の「アジェンダ21」は、全体として環境と開発に果たす女性の役割についての意味が矮少化されている。タイトルも「女性のための」ではなく、「女性の地球規模の行動」とすべき。地峡環境問題において女性がその役割を果たすためには、女性が自己決定できる社会経済的地位をあげることが必要であり、女性のとって不公正な生産と配分の是正と、生産性優位の価値観とそれに基づく男女の役割構造を変えることが必要である。
  2. また日本政府の「アジェンダ21」には、以下の点を加えるべきである。
    1. ライフスタイルの転換のためには、女性の生産段階での意志決定への参画が重要であること。
    2. あるゆるレベルでの意志決定の参画に対する女性の比率を高める必要があることを明記すること。
    3. 女性の役割の強化として、「環境等に関する女性の活動を支援する」ことを明記すること。
    4. 「生殖に関する健康と選択は女性の基本的人権であり、私事に属する」ことを明記すること。
    5. 開発途上国の女性への経済自立への教育援助を実施することを書き加えること。
    6. 女性の労働を国民経済計算の中に組み込むシステムの研究を開始することを書き入れること。

5 永続的発展(SD)のパートナーとしての非政府組織(NGO)をめぐって

  1. NGOの役割、存在意義について、政府とは異なるセクターとしての役割を確認し、NGOの取り組みがその独立性を損なわれることなく円滑に進められるよう、諸制度の整備をはかる必要があること。
  2. 日本政府の「アジェンダ21」には、本来あるべき第23章「セクションV(主たるグループの役割強化):全文」がないこと。
  3. 当面の問題として、(A)政策立案・意志決定過程への参加、(B)各種の情報の公開(真の参加の前提となる条件)、(C)NGOの法人格の取得の条件の緩和、(D)NGOに関わる税制改革が明記される必要がある。

6 資金源及びメカニズム

  1. 行動計画には、「共通だが差異のある責任」の原則を明示的に確認すべきである。
  2. 政府開発援助(ODA)について、「資源の効率的かつ公正な配分」との抽象的な言葉でなく、日本政府の政策を、具体的に示すべきである。
  3. 地球環境ファシリテー(GEF)についても、日本政府の「GEFの改革案」や「気候変動・生物多様性両条約における資金供与制度と改革後のGEFとの関係についての見解」を明示する必要がある。
  4. 日本政府の統治を改善するためには、1)情報公開法を制定し、2)世銀における日本政府代表の行動を透明にする制度を設けるべきである。
  5. ODAについては、責任の所在を明確にし、援助を合理的に実施するため、そして、援助の実態の公開の前提として、援助機関の一元化が必要である。
  6. ODAについて、「2000年までにODAの対GNP比を0.7%目標を達成する」ことを明記すべきである。

7 国際法措置及びメカニズム

  1. 現在の国際環境実体法及び手続法の充実およびその適正な実施を妨げている問題点を克服し、その上で新たな国際的合意の形成や既存の合意についての修正がなされなければならないこと。
  2. これらの問題点を克服して国際的合意形成を図るためには国内、国外のNGOの参加を制度化することが不可欠である。
  3. 国際的環境紛争解決の手続法としての国際的司法手続を整備し、国連組織への不服申し立てなどによる簡易、迅速な紛争解決手段、メカニズムの整備が必要であること。
  4. 上記の国際環境法の現在の問題点と課題に関連して、わが国の国内環境法がどのような問題点を有しているかを特定し、それを克服し改善していくことが必要であること。

 
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
 
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