COP9通信(2003年12月11日)


6歳の誕生日

 今日12月11日は、京都議定書の6歳の誕生日です。6歳といえば日本では小学校に
入学する歳です。議定書交渉も、マラケシュでのCOP7からの宿題であった「sink
CDM」について合意が成立し、何時でも小学校に入学できる準備が整いました。

 COP9会場でも、午後6時から京都議定書の6歳の誕生日を祝うパーティが開催され
ました。



↑ バースディケーキを前に挨拶する環境省の浜中審議官



 バースディパーティで挨拶する、条約事務局の前事務局長のクタヤールさん
  (右)と、現在の事務局長のヨーク・ウォーラーハンターさん(左)



「sink CDM」で合意が成立

 12月9日午後7時、クリーン開発メカニズム(CDM)の吸収源プロジェクトのルー
ル(sink CDM)についての合意が成立しました。モロッコのマラケシュのCOP7から
2年間かかった交渉がようやく合意に達したことは歓迎したいと思います。

 私たち環境NGOの主張からはいくつかの問題点もありますが、積極的に評価できる
内容も含まれています。

 問題点は、・地域の生態系や環境に大きな負の影響を与える単一種のプランテー
ションを除外できなかったこと、・遺伝子組み替え生物や侵入外来種を禁止できな
かったことです。

 しかし、プランテーションについてはホスト国が持続可能な発展(SD)に反する
と判断すればこれをCDM事業から排除することは可能です。また遺伝子組み替え生物
や侵入外来種についてもホスト国、投資国の両方で国内法でこれを禁止または得られ
たクレジットを使わない道が残されています。

 これからは個別のCDM事業を、ホスト国の市民・環境NGOと協力して、市民・環
境NGOの立場から監視していくことが必要です。


「再植林」の定義

 「再植林」の定義については、CDMの再植林プロジェクトについて、国内吸収源と
同様に1989年末の時点で森林ではなかった土地に植林することを「再植林」とする
か、日本政府などが主張していた「1989年ではデータが不足しているので、1999
年末にすべき」かが議論されていました。結局、国内吸収源と同様に1989年末の時
点で森林ではなかった土地に植林することを「再植林」と定義することになりまし
た。


非永続性について

 植林または再植林された森林が、その後、火事や伐採などにより消失してしまった
場合の扱いについては、EUなどは発行されるクレジット(CER)を有効期限付きにす
る方法(有効期限付きCER:temporary CER)を提案し、カナダは、将来の森林消失
に対して保険をかける方法(保険付きCER:Insured CER)を提案していました。

 合意では、保険をかける方法(保険付きCER:Insured CER)はなくなり、有効期限
付クレジット(t CER:temporary CERs)と、長期クレジット(l CER:long-term
CERs)の2種類のクレジットが発行できることになり、選択できることになりまし
た。

 有効期限付クレジット(t CERs)は、そのクレジットが発行された約束期間内(5
年間)は有効で、目標達成に使えますが、次期約束期間に繰り越すことはできませ
ん。即ち、使わずに余ってしまったクレジットは次の約束期間に使うことはできませ
ん。ただ、クレジットの失効後、もとの森林が残っていれば、その炭素蓄積量に応じ
てクレジットが再発行されます。

 これに対して、長期クレジット(l CER:long-term CERs)は、30年のものと、
20年で2回更新できる(最大60年)ものがあります。

 これらの吸収源クレジットはいずれも5年ごとの検証が必要とされており、検証の
時点で森林火災などで消失してしまっていれば、クレジットは失効し、失効したクレ
ジットは削減目標の達成に使うことはできません。


遺伝子組み替え生物や侵入外来種について

 クリーン開発メカニズムの吸収源プロジェクトで遺伝子組み替え生物(GMO)や
侵入外来種(alien invasive species)を使うことができるかどうかについて、これ
を制限しようとする意見と、制限すべきではないとする日本などの意見が対立してい
ました。合意では、遺伝子組み替え生物や侵入外来種を制限する明確な規定は盛り込
まれませんでしたが、合意では事業者はCDM理事会に提出する事業設計書(PDD:
Project design document)で生物種について明記することになり、また、事業を実
施する途上国(ホスト国)が、国内法でこれらの遺伝子組み替え生物や侵入外来種の
危険性について評価を行い、投資する先進国(投資国)もこうした遺伝子組み替え生
物や侵入外来種などの植林または再植林で得たクレジットを使うかどうかを国内法で
評価することが決定文書の前文に記載されました。


小規模プロジェクトについて

 エネルギー関連のCDM事業では年間10キロトン(二酸化炭素換算)以下の小規模
プロジェクトに対しては簡素化された手続きが認められています。吸収源プロジェク
トにも同様に小規模プロジェクトの概念を設け、簡素化された手続きを認めるかどう
かが議論されていました。

 私たち環境NGOの多くは、吸収源プロジェクトは科学的不確実性など様々な不確実
性があることから、簡素化された手続きは認めるべきではないと主張していました。
 合意では、年間8キロトン以下の吸収源プロジェクトを小規模プロジェクトとし、
簡素化された手続きが認められました。その手続きの具体化は来年6月の第20回補助
機関会合(SBSTA20)で検討することになりました。


環境評価、社会経済的影響評価について

 環境・社会経済的影響については、事業者が作成する事業設計書(PDD)に、事業
予定地の情報、事業予定地の生態系や環境への影響、事業予定地以外の地域への生態
系や環境への影響、住民やその地域の社会経済への影響などについて明記することに
なっています。


サイドイベント

 COPのような国際会議では、様々な団体がそれぞれの主張や成果を発表したり、意
見交換するサイドイベントが数多く開催されます。今回のCOP9では115くらいのサ
イドイベントが開催されています。 そのなかで今回のCOP9の特徴は、多くのワー
クショップで炭素固定が削減策のオプションとされていることです。この炭素固定化
というのは、火力発電所などから排出されるCO2を固定化(ドライアイスの形、また
は液状)して、これを海中とか廃鉱に埋めてしまおうというものです。

 私たち環境NGOは、炭素固定自体に懐疑的で、またこうした技術に頼ることは危険
だと考えています。いま考えつくものだけでも次のような問題点があると思われま
す。

(1) 炭素固定化は温暖化問題の本質的解決にはならない。基本的に、排出削減を
   めざすものではなく、エネルギーの大量消費を前提とした発想に問題がある。
(2) 海中に投棄する場合は、海洋の炭素濃度が上昇したときの生態系や漁業など
   への影響がまったく不明である。
(3) エネルギー収支も不明。炭素固定化にあたってエネルギーを必要とするため、
   少なくとも、社会全体のエネルギー効率が悪くなる。
(4) 技術的に未解決な部分が大きい。もし海中などに廃棄されたCO2が漏れ出したり
   すれば、将来の温暖化の危険性が増すことになる。また廃鉱などへの投棄も、
   地震などで漏れ出す可能性も否定できない。現世代の廃棄物を次世代に送ること
   になる。
(5) 懸念される問題がすべて解決した場合であっても、炭素固定できる場所は大規模
   火力発電所などに限定されている。例えば、運輸部門のように大気中に放出された
   炭素を固定することは不可能。またすでに排出された炭素を固定することはできない。
(6) 炭素固定化技術を使用するという立場に立ったとしても、これを削減(reduction)
   としてカウントすべきではなく、あくまで環境中への排出(emission)としてカウント
   すべきではないか。



 IPCCと環境NGOとの意見交換の様子


 
今日の化石賞

12月8日(8日目)

1位 アメリカ:サイドイベントで、根拠のない技術対策をベースにした気候変動戦
        略を発表したこと。
2位 アメリカ:予算問題で、京都議定書の予算には拠出しないと主張しつづけてい
        ること。
3位 イタリア: 24時間電気をつけているウサギ小屋のような会議室と分別しない
        ごみ収集。

12月9日(9日目)

1位 サウジアラビア:特別気候変動基金の協議で、石油が売れなくなることへの経
           済的補償をすべきとしつこく主張していること。
2位 カナダ、ニュージーランド、中国:sink CDMの事業について遺伝子組み替え生
                   物を排除することをサポートしなかった。

12月10日(10日目)

1位 アメリカ:受賞理由は2つ。1つ目は、記者会見でアメリカのドブリアンスキー
        代表が、「ブッシュ大統領が、観測されている温暖化と気温上昇は
        循環的な変化だと個人的には考えていると公の場で発言した」と発
        言したこと。2つ目は、アメリカは、遺伝子組み替え生物がCDMプ
        ロジェクトから除外されるかどうかに関心をもっていると、全体会
        合(Plenary)で発言したこと。

2位 サウジアラビアと中国:特別気候変動基金の協議で、経済の多様化(石油が売
              れなくなることへの補償)も基金の対象とすべきであ
              ると主張したこと。
3位 カナダ:sink CDMのコンタクトグループで最後のあがきをしたこと。


ミラノ短信

 来年のCOP10の開催場所について、12月10日にアルゼンチンがCOP10のホスト
を申し出ました。1998年のCOP4がアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されま
したが、ブエノスアイレスで開催されると2回目のCOPになります。ミラノ時間でい
ま12月11日の午後7時半。会議もあと残すところあと2日、まだ「特別気候変動基
金」の問題や、「非付属書1国の国家通報」についての議論が残っています。いよい
よCOP9も最終盤です。(H)


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