COP9通信2(2003年12月5日)


議論はコンタクトグループに・・・

COP9も4日目に入り、実施に関する補助機関(SBI)と科学的・技術的助言に関する補助機関(SBSTA)の下に、12月4日の朝の時点で確認できるだけでも9つのコンタクトグループがつくられテーマごとの議論が進んでいます。

 コンタクトグループというのは、正式な機関ではかりませんが、課題ごとに集中的に議論を進めるため、COPや補助機関の議長が設けるもので、その議論が公開される場合(私たちNGOが傍聴可能な場合)と非公開の場合があります。

 コンタクトグループには、対立する意見を持つグループや国が参加し、その問題について集中的に議論し、その結果が補助機関会合に報告されることになります。

 12月4日朝の時点で確認できるコンタクトグループは次のとおりです。

 

SBIの下に設けられたコンタクトグループ

@       非付属書T国の国家通報(national communication)

A       キャパシティビルディング(capacity-building)

B       特別気候変動基金(Special Climate Change Fund)

C       2004-2005年の2年間の予算(the programme budget for the biennium 2004-2005)

 

SBSTAの下に設けられたコンタクトグループ

D       クリーン開発メカニズムの吸収源プロジェクト(sink CDM)

E       吸収源問題に関する優良事例のガイダンス(good practice guidance and other information on LULUCF)

F       技術移転(development and transfer of technologies)

G       研究・観測体制(research and systematic observation)

H       IPCCの第3次評価報告書(the Third Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change)

I       条約と京都議定書の手法問題(methodological work under the Convention and the Kyoto Protocol)

 

注:気候変動枠組条約の最高決定機関は締約国会議(COP)ですが、COPを補助する機関として2つの常設補助機関があります。1つは、「科学的、技術的助言に関する補助機関(SBSTA)」で、もう1つが「実施に関する補助機関(SBI)」です。

 


プーチン大統領?の京都議定書批准拒否発言

COP9通信1で、ロイターやAPなどで、ロシアのイラリオーノフ大統領補佐官(経済問題担当)が、プーチン大統領の発言として、「京都議定書はロシアの経済成長に大きな制約となるので、今の枠組みでは批准できない」と語ったことについて触れました。その後、日本の新聞各社もこの問題を取り上げているようです。

アメリカの経済専門誌の「ウォールストリートジャーナル(THE WALL STREET JOURNAL)」は、ロシア政府のスポークスマンであるアレクセイ・ゴルシェコフ氏が、イラリオーノフ大統領補佐官の発言を否定して、「ロシア政府は、京都議定書を支持するか、拒否するかは決めていない」と話したと伝えています。EUの環境委員会のスポークスマンも、「何も新しいことではない。プーチン大統領は9月の世界気候変動会議でも、同じようなことを言っていた。政治的な発言に過ぎない」と極めて冷静に受け止めています。

毎日新聞などが書いているようにイラリオーノフ氏は、ロシア政府の中でも議定書反対強硬派の筆頭として知られている人物で、COP9通信1にも書いたように9月の「世界気候変動会議」でエクソンモービルの資料を使ってプレゼンテーションしたといういわくつきの人物です。
12月4日の新聞各社は、ロシアのムハメド・ツィカノフ経済発展貿易次官が12月3日に記者団に対し、「われわれは批准に向けて動いている」と述べ、政府が批准拒否を決定したことはないと語った、と伝えています。

イラリオーノフ大統領補佐官の真意はわかりませんが、日本経済新聞が書いているように、「プーチン大統領が会談で同顧問と同じように発言したかどうかは明らかでないが、世界貿易機関(WTO)へのロシアの加盟問題を巡りEU側から譲歩を引き出す手段として議定書への否定的立場を強調した公算もある」という見方もあります。ロシアは、WTOに早期加盟を希望していますが、EUが常にロシアのWTO加盟を支援すると言いつつも、ロシアに天然ガスの国内価格引き上げやガス取引の自由化をWTOへの加盟条件にしていることをプーチン大統領自ら非難しており、こうしたWTO加盟をめぐる思惑が背景があるといわれています。


クリーン開発メカニズムと吸収源問題

これまでの議論の経過


クリーン開発メカニズム(CDM)の対象プロジェクトに植林などの吸収源活動を含めるかどうか、含める場合にどのようなルールにするかについては長く議論が交わされてきました。
CASAでは、CDMに吸収源プロジェクトを含めることは「大きな抜け穴」になりかねないことから反対してきました。その主な理由は以下のとおりです。

@ 気候変動対策の基本は化石燃料等からの排出削減であり、森林などによる吸収ではないこと、
 A 植林などのCO2の吸収量の計算に科学的不確実性が伴うこと
 B 伐採が予期されていた森林の保全を行った場合、木材に対する需要が変わらなければ、どこか別の森林が伐採されることになり、全体で見たときそのCDMプロジェクトが炭素の排出を削減したとは言えない計測漏れ(リーケッジ)が起こりうること(計測境界の問題)
 C CDMのプロジェクトとしてプランテーションなどが許されると、生態系などに深刻な影響が引き起こされかねないこと

2001年11月のCOP7での「マラケシュ合意」で、CDMの吸収源プロジェクトについて、@第1約束期間において新規植林と再植林(afforestation and reforestation)を対象とすること、A取得できるクレジットの上限を基準年排出量の1%とすることが決まりました。対象プロジェクトを新規植林、再植林に限定し、利用できるクレジットを基準年排出量の1%に限定したことは妥協の産物ですが、一定の環境十全性を担保し、「抜け穴」防止にはなると評価してよいと思います。
 しかし、「森林」、「新規植林」や「再植林」の定義や具体的な手続については、COP9で採択し、京都議定書が発効した第1回締約国会合(COP/MOP1)で決定することになっています。

 COP9で議論されている論点

(1)「再植林」の定義について

 マラケシュ合意で、国内吸収源の「森林」などの定義は以下のように決まりました。

@ 森林:最小面積が0.05〜1.0ヘクタール、最小樹冠率10〜30%、成木の最小樹高2〜5メートル
 A 新規植林:過去50年間森林でなかった土地に植林すること
 B 再植林:1989年末時点で森林でなかった土地に植林すること

森林と新規植林については、CDMの吸収源プロジェクトについても国内吸収源と同様に定義とすることでほぼ合意されています。ところが、「再植林」については、CDMの再植林プロジェクトについて、国内吸収源と同様の定義を用いるかどうかが議論の対象になっています。
途上国やEUをはじめとする大多数の国は国内吸収源と同じ定義を用いるべきだと主張していますが、カナダ、日本、コロンビアなどは1989年末のデータが不足していることを理由に1989年末を1999年末に変更すべきとしています。多くの締約国やCASAなどの環境NGOは国内吸収源もCDMの吸収源プロジェクトも同じ定義にすべきだと主張しています。


(2)非永続性について

吸収源活動が他のCDMプロジェクトと異なるのは、植林・再植林された森林が、その後、火事や伐採などにより消失してしまうことがあることです。この問題にどう対処するかが問題になっています。
EUなどは、発行されるクレジット(CER)を有効期限付きのものとする方法(有効期限付CER:temporary CER)を提案し、カナダは、将来の森林消失に対して保険をかける方法(保険付きCER:Insured CER)を提案しています。
EUが提案している有効期限付CERは、発行後5年間で失効し、次期約束期間に繰越できないとされ、失効後、もとの森林が残っていれば、その炭素蓄積量に応じてクレジットが再発行されるというものです。これに対しカナダ提案は、伐採や火事による森林消失分のクレジットを、保険会社が京都クレジット(削減や共同実施や他のCDMにより獲得されたクレジット)で補填するというものです。
日本政府は、カナダ提案の保険付きCERと有効期限付CERとを選択可能にすべきとの主張していますが、大多数の締約国やCASAなど環境NGOは、EU提案を支持しています。


(3)その他の論点

@ ベースラインの問題:事業がなかったと仮定した場合のCO2の吸収量に加えて、将来の社会経済的状況の変化などを追加的な要件とするか
 A 追加性の問題:通常の事業に対し、吸収量、資金面、追加的な削減であること要件とするか
 B クレジット発生期間:CDMの吸収源プロジェクトのクレジットの発生期間をどのくらいにするか
 C 計測漏れ(リーケッジ)の問題:計測対象範囲や漏れが大きいと想定される事業の取り扱い
 D 社会経済的影響について:チェクリスト、ガイドラインなどの国際的評価基準を作成するか、排出源CDMと同様にホスト国(途上国)の判断基準とするか
 E 小規模吸収源プロジェクト問題:簡略化した手続で行なえる小規模吸収源プロジェクトを認めるかどうか。マラケシュ合意では、再生可能エネルギーの利用などについて簡素化された手続きが適用される小規模事業の実施が認められていますが、CDMの吸収源プロジェクトについてもこうした簡素化手続きが適用される小規模事業を認めるかどうかが論点ですが、CASAなど環境NGOは認める必要はないと主張しています。
 F 遺伝子組替え生物(GMOs)や侵入外来種(alien invasive species)問題:遺伝子組替生物は、遺伝子レベルで自然環境に取り返しのつかない影響を与える可能性があり、こうした植物がCDMの吸収源プロジェクトから除外すべきだと、私たち環境NGOは考えています。

 COP9での議論

 CDMにおける吸収源プロジェクトについては、補助機関の1つであるSBSTAのもとにコンタクトグループが設けられ、集中的な議論が始まっています。12月3日には、このコンタクトグループの議長から議論のたたき台となる提案(NON PAPER)が出され、これに基づいて議論がされることになっています。



今日の化石賞

 
12月2日の「今日の化石賞」

1位がオーストラリアで、2位がアメリカ、3位がロシアでした。オーストラリアが受賞した理由は「アメリカの資金供与は気候変動枠組条約の活動だけに使われるべきで、京都議定書の費用として使われるべきでない、とアメリカが主張したことを支持した」ことに対し、アメリカの受賞理由は「アメリカの代表団が、京都議定書とその交渉の様子を、拘束衣を着せたり、頭痛に対して前頭葉の外科手術をしているようだと発言した」ことに対し、ロシアの受賞理由は「ロシアのイラリオーノフ大統領補佐官(経済問題担当)が、プーチン大統領の発言として、「京都議定書はロシアの経済成長に大きな制約となるので、今の枠組みでは批准できない」と語ったこと、に対して贈られました。



12月3日の「今日の化石賞」

カナダ、日本、アルゼンチン、フランス、アイルランドの共同受賞になりました。受賞理由は、遺伝子組替生物をCDMの吸収源プロジェクトから除外する提案を支持しなかったとことが受賞理由です。日本の受賞は、COP9では初めてです。
 

ミラノ短信

11月29日にミラノ入りしてからずっと雨です。それに加えて、会議第1日目の12月1日は朝から地下鉄などの公共交通機関がストライキに入ったため、会議の会場まで雨のなかを約4キロ歩くはめになりました。ホテルでタクシーを呼んでもらおうとしても混んでてだめだといわれ、私たちNGOは政府代表団と違い送迎の車もなく雨のなか歩くしかありませんでした。帰りも午後3時頃にはストライキは終わると聞いていたのですが、午後9時頃になってもまだ地下鉄は動いておらず、やっとのことでタクシーをつかまえて帰りました。

 それにしてもよく雨が降ります。これも異常気象かも知れません。合意ができずに決裂した2000年のハーグでのCOP6を思い出します。あの時も毎日雨が降り続いていました。(H)



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