COP9通信 (2003年12月2日)


COP9始まる

  2003年12月1日、イタリアのミラノで気候変動枠組条約第9回締約国会議
(COP9)が始まりました。議長にはハンガリーの ペルシャニ環境・水利相が選出さ
れました。

 COP9の会期は12月12日までの2週間で、 150カ国以上の代表らが集まり、京都議
定書の運用ルールのうち、未決着のクリーン開発メカニズム(CDM)の 吸収源プロ
ジェクトのルールなどを決めることになっています。また、12月10日と11日の両日
には、 閣僚級会合が開催され、@気候変動による悪影響への適応策、温室効果ガスの
排出削減策と持続可能な開発、 A技術の使用や開発、技術移転を含む技術問題、B温
暖化対策の実施状況やその成果の評価、の3テーマについて話し合い、 議長総括が出
されることになっています。

 条約事務局の発表では、日本からは73名の政府代表団が参加しており、 閣僚級会
議には小池百合子環境大臣が参加し、@のラウンドテーブルの共同議長をするそうで
す。

  COP9における実質的な最重要課題は、京都議定書の発効と2013年以降の制度設計に
ついての議論です。第1日目から、 京都議定書の発効問題(具体的にはロシアの批准)、
第2約束期間以降の制度設計についての各グループからの 発言が始まっています。


京都議定書の発効問題

 京都議定書は発効要件として、 @55カ国以上の締約国の批准、A条約の付属書T
国(先進工業国及び経済移行国)の55%以上の排出量を 占める締約国の批准を定め
ています。現在まで、@の条件については188カ国の条約の締約国のうち120ヵ国が
批准して条件を満たしていますが、Aの条件についてはアメリカやオーストラリアが
批准を拒否しており、 現在までに44%に相当する国が批准しているにすぎません。

 未批准国のなかでロシアが17.4%のCO2排出量を占めており、 京都議定書の発効
はロシアの批准如何にかかっています。ロシアは、昨年(2002年)9月の
ヨハネスブルグ・サミットで 、カシアノフ首相が「近い将来批准する」と発言し、
今年6月には関係省庁の調査はすべて終了し、副首相に書類が 提出されたとのことで、
批准は時間の問題だと思われた時期もありました。

 ところが、今年9月にモスクワで 開催された「世界気候変動会議」でプーチン大統領
は、「ロシアは京都議定書への早急な参加を求められている」との 認識を示しなが
ら、「ロシア政府は京都議定書に関連した複雑な問題を全て総合的に調査しており、
その作業が終了した 後に、ロシアの国益に従って決定が行なわれる」と、批准に後ろ
向きともとられる発言をして、ロシアの批准問題は不透明に なってしまいました。ロ
シアではこの12月7日に下院の選挙が、来年3月には大統領選挙が予定されており、
批准は早くても 来年6月頃だとも言われています。

 ロシアが批准に明確な態度を示そうとしないのは、交渉のなかでさらに何か利益を
得ようとしているとか、世界貿易機関(WTO)の加盟問題との取引を考えていると
か、様々な情報が飛び交っています。 こうしたロシアの対応を見ていると、2001年
7月のCOP6再開会合で、日本が批准しないと京都議定書が発効しないことを利用し
吸収源問題でEUなどの大幅な譲歩を勝ち取ったことに学んで、ロシアが発効に対し
てキャスティングボードを握ったことを 利用しようとしているように思えてなりませ
ん。


第2約束期間以降の制度設計について


 第2約束期間以降の制度設計の議論では、アメリカを参加させるためにも第2約束
期間から主要な途上国に 削減目標を認めさせたい先進国と、地球温暖化は先進工業国
が起こした環境問題であり、条約や議定書の根本原則である 「共通だが差異ある責
任」の原則からしてもまず先進国が削減対策をとるべきで、途上国の削減目標の議論
など 時期尚早だと主張する途上国グループとが対立しています。

 また、日本の経済産業省や一部産業界には、アメリカの 議定書交渉からの離脱やロシ
アの批准の遅れを好機ととらえ、アメリカを参加させるためには今の京都議定書の枠
組みでは だめで、より緩やかな制度にする必要があるとの意見が出始めています。

 しかし、第2約束期間の制度が第1約束期間の 制度より緩やかになってしまった
り、まったく異なる制度になってしまうと、第1約束期間の削減目標達成へのインセ
ンティブがそがれ、さらに対策が遅れてしまう懸念があります。

 また、こうした議論で問題なのは、気候変動の深刻な 影響を認識し、これを防ぐた
めにどの程度の温室効果ガスの削減が必要かを検討し、その中で制度設計を考えるア
プローチ ではなく、産業界の当面の利益や経済への影響などを考えるとここまでしか
できないというアプローチをとっていることです。

 第2約束期間以降の制度設計の議論で重要なのは、長期的な視野に立つとともに、
早い段階で温室効果ガスを大幅に 削減する必要があることを認識することです。

 また、第2約束期間以降の制度は一定の論理的ルールに基づく必要があります。科
学性と衡平性をそなえた論理的ルールに基づく制度設計こそが、多国間交渉の合意を
可能にし、長期的な制度を保障します。そして、そのベースとなるのは京都議定書で
なければなりません。様々な問題を抱えているとはいえ、長い議論の末にたどり着い
た京都議定書の上に議論を積み上げ、さらに先へ踏み出すのが現実的な方法だと思い
ます。

 フランスで1 万人もの死者を出したという欧州の熱波、中国南東部の大洪水、南欧
や北南米での山火事など、気候変動が現実味を帯びる中で、気候変動枠組条約が定め
る究極的な目的の達成に向けて、2013年以降に温室効果ガスの排出削減をさらに強
化する必要があることを忘れてはなりません。


CASAポジションペーパー
  
 CASAでは、COP9での第2約束期間以降の議論に向けて、ポジションペーパー
「京都議定書をベースに地球レベルの長期的な環境目標の議論を!〜対策強化に
消極的な日本の経済産業省と一部産業界〜」を作成し、日本語版英語版とを
COP9で配布しています。

 このポジションペーパーは、第2約束期間以降の制度設計の議論に対するCASAの
基本的な視点と、日本の経済産業省が設置する産業構造審議会の環境部会地球環境小
委員会が、今年5月に2013 年以降の国際的な枠組に関する考えをまとめた「気候変
動に関する将来の枠組みの構築に向けた視点と行動」と題する報告書に対する反論を
その内容とするものです。

 CASAは、この産業構造審議会の報告書の内容は、以下のような理由で極めて問題
であると考えます。第1に気候変動問題に対する危機認識の低く、気候変動が引き起
こす生態系や人間社会への深刻な影響があまりにも軽視されており、予防原則の
考え方が全く見られないこと、 第2に、京都議定書が不公平であるとして不満を連ね、
京都議定書の削減義務を達成する意思に欠けていること、 第3に2013年以降に
よりゆるやかな枠組を求めていること、などです。

 CASAのポジションペーパーの要旨は 以下のとおりです。

2013年以降の枠組は、一定の論理的ルールに基づき、 かつ長期的な視野に
 たったものとする必要がある。そのベースとなるのは京都議定書である。

経済産業省の審議会がまとめた報告書は、進行する気候変動に対する危機感に
 乏しく、気候変動を防止しようとする意思に欠けている。CASAは、日本の経済産業
 省や一部産業界の気候変動問題に 対する認識と、2013年以降により緩やかな枠組を
 求める姿勢は極めて問題であると考える。

地球レベルの長期的な環境目標について早急に議論を開始すべきである。長期
 的な環境目標の議論をするということは、危険な水準もしくは危険でない水準と、
 それにいたる経路を議論することである。 そのような議論は、私たちにとって大幅
 な排出削減が早急に必要であり、それが持続可能な発展を担保する上でも必要不可
 欠であることを認識させる。

日本は大幅な排出削減が必要であるが、 CASAの試算によれば、それは充分可
 能である。技術対策・電源対策・需要対策の推進による国内対策だけで、2010年の
 日本の温室効果ガス排出量は、基準年比で11%削減できる。



今日の化石賞

 
  今日の化石賞というのは、 気候変動問題に取り組む世界の環境NGOの連合体である
気候行動ネットワーク(CAN) が、 その日の交渉で最も後ろ向きの発言や行動を
した国に対して贈る賞です。

 COP9の第1日目の化石賞は、 第1位がアメリカ、第2位がロシアになりました。受
賞理由は、アメリカは記者会見で気候変動問題は起こるかどうか 分らないのに騒ぐ
「おおかみ少年」のようなものだと発言したこと、ロシアは京都議定書を批准しよう
としないことに 対して贈られました。



 ちなみにロイターやAPなどで、ロシアのAndrei Illarionov という経済分野の補佐
官が、「京都議定書はロシアの経済 成長に大きな制約となるので、今の枠組みでは批
准できない」と発言したことが大きく取り扱われていますが、このAndrei Illarionov
という人物は、9月の「世界気候変動会議」でエクソンモービルの資料を使ってプレ
ゼンテーション したといういわくつきの人物で、ロシアを代表しての発言と
受け取る必要はないようです。


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