COPMOP3 通信3
(2007年12月10日)
◆
会議は2週目に
会議も2週目に入り、2013年以降の議論に関連する、@条約の下での長期的な共同行動についての対話の継続問題
(ダイアログ)、A京都議定書9条の議定書の見直し、B先進国の削減目標について話し合う特別作業グループ(AWG)
の、それぞれのコンタクトグループで決定草案が公表され、これについての議論が始まっています。
◆
ダイアログの決定草案(Non-Paper)
12月8日(土)午後4時30分から開催されたダイアログのコンタクトグループで、共同座長(ファシリテーター)から、
決定書草案が配布されました。
この決定書草案の主な内容は以下のとおりです。
■IPCCの第4次報告書の知見
前文に、「気候変動の最悪の影響を予防するためには、条約の付属書T国(先進国)の排出量を、2020年までに1990年
レベルから25〜40%削減し、世界の温室効果ガスの排出のピークをこれから10〜15年の間に迎え、2050年までに排出量
を2000年レベルから半分以下にすることが必要とする明らかな科学的証拠に応えて」とIPCCの科学的知見の重視が書か
れています。ここは、「応えて(Responding to)」と書かれており、よく使われる「認識し(recognizing)」より強い
表現で、IPCC第4次報告書の知見を前提とすべきであることが書かれています。
こうした記述は、8月にオーストリアのウィーンで開催されたAWGで、IPCC第4次報告書を引用する形で記述されており、
今回が初めてではありません。しかし、日本をはじめいくつかの国は強硬にこうした記述を書き込むことに反対しています。
世界の環境NGOのネットワークである気候行動ネットワーク(CAN)は、12月8日付けのECO(ニュースレター)で、「2050年
ターゲットを1990年レベルからにすべき」としながらも、強く支持しています。
■議定書9条の見直しやAWGとの関係
条約の下でのダイアログを継続する手続きと、議定書の下での9条の見直しや、AWGとの関係については、「条約と京都
議定書のもとでの他のプロセス、とりわけ条約の附属書T国(先進国)の次期目標を議論しているAWGの進展状況と結果
を考慮し(taking account of)」としています。
この議定書9条の見直しやAWGとの関係は、先進国が途上国の参加問題と関連させて関係づけを強くしようとしているの
に対し、途上国のなかには新たな義務につながりかねないとして、関連付けることに反対する声が強くあります。ただ途
上国のなかにも、経済的に発展し、温室効果ガスの排出量の多い国は、何らかの行動をとるべきと考えている国も多く
なってきています。
■アメリカの参加
この決定草案は、検討すべき課題のひとつとして、
「すべての先進締約国の数値化された排出目標」を課題としています。
この記述は、京都議定書の削減目標が「数値化された排出抑制・削減目標」とされているのと異なり、「抑制・削減」の文
字がありません。この表現では、「すべての先進締約国」が、このような「抑制・削減」でない目標となってしまう恐れが
あります。
12月8日付けのECOは、このような婉曲な表現ではなく、「京都議定書を批准していない国―アメリカ」と、はっきり書く
べきだと主張しています。
■途上国の参加問題
途上国の参加については、「持続可能な発展とクリーンな経済成長を促進しながらも、排出量の増加を抑え、あるいは
削減する途上国の計測かつ検証可能な緩和策の方法の認識(mean
to recognize)」を検討課題としています。
この項目は、途上国の参加に関する項目で、途上国がもっとも警戒する項目です。
■適応問題
適応については、@適応についての国際的な協力、A技術支援、Bファイナンスと投資が考慮すべき課題とされています。
■交渉期間
いつまでに合意するかについては、3つのオプションが提案されています。
オプション1:いまの形式のダイアログを続け2009年に交渉を終わって、2009年末に開催されるCOP15に報告する。
オプション2:条約のもとに特別作業グループ(AWG)をここで立ち上げ、2009年に交渉を終わって、2009年末に開催さ
れるCOP15で採択する。
オプション3:京都議定書のもとでのAWGプロセスと結合(combining)した条約のもとでの特別作業グループ(AWG)を
ここで立ち上げ、2009年に交渉を終わって、2009年末に開催されるCOP15で採択する。
ほとんどの国がオプション2に賛成しています。
■その他、考慮されるべき事項(informed
by)
考慮されるべき事項として、(a)IPCCなどの科学的知見、(b)京都議定書のもとでのAWGの検討課題、(c)現在進められている
外のプロセスからのインプット、などがあげられています。
(c)の「現在進められている外のプロセスからのインプット」は、アメリカが今年9月にワシントンで開催した「主要経済
国会議(MEM)」などの検討結果を、このプロセスに反映させようとする主張を入れたものです。このMEMでライス米国務長
官は、@温室効果ガスの長期削減目標を策定すること、A各国別の中期的な目標と計画を、各国が自主的に作ること、B経
済と環境の両立はエネルギー革命で乗り越えられる、と基調演説したとされます。このライス米国務長官の演説内容は、日
本が会議2日目に化石賞をとった「各国が自由に目標を設定するプレッジ&レビュー方式」と瓜二つです。
◆
議定書9条の見直しの決定草案
12月10日午前に開催された、議定書9条の見直しに関するコンタクトグループで、議長から決定草案が出されました。
その内容は、以下のようなものになっています。
(1) 京都議定書9条の第2回見直しは議定書の実施を進めるとともに、2013年以降の約束期間を含む要素について検討
することを目的とするとともに、IPCC第4次報告書などの最新の科学的知見に基づいて行わなければならない。
(2) この見直しは、いかなる締約国にも新たな義務を科すものではないことを再確認する。
(3) 2008年3月21日までに、@適応コストの負担、A京都議定書の遵守規定の帰結の法的拘束力問題、B京都議定書の
附属書の改正手続などについての意見の提出。
(4) 2008年9月19日までに、
(a) 排出量の削減、
(b)レポートとレビュー、
(c) 資金源、(d)技術移転、
(e)吸収源、・・・
(i)削減義務の性質、(j) 約束期間と基準年、 (k)
温暖化のポテンシャルなどについての意見の提出。
討議の中で、日本は(4)の(i)削減義務の性質、(j)
約束期間と基準年を検討することを支持しました。「削減義務の
性質」というのは法的拘束力の問題につながり、「約束期間と基準年」は日本政府が主張している京都議定書の基準年の
1990年というのは日本に不利であるとの主張につながります。
◆
AWGの決定草案
12月10日午後に開催された、京都議定書のもとでのAWGのコンタクトグループで、議長から決定草案が出されました。
この決定草案は、2008年から2009年にかけての詳細なスケジュールが書かれています。そのスケジュールは以下のよう
な内容になっています。
第5回AWGの1回目 2008年3
or 4月
第5回AWGの2回目 2008年6月
第6回AWGの1回目 2008年8
or 9月
第6回AWGの2回目 2008年12月
第7回および第8回AWGを2009年中に開催
議論のなかでは、ダイアログの決定書草案に書かれているようなIPCCなどの知見の重視を書くべきだとか、他のダイア
ログや議定書9条の見直しとの関連づけて議論を進めることを明記すべきだなどの意見が出されていました。
◆
適応基金の始動に向けて合意へ
10日夜、適応基金のコンタクトグループは、補助機関会合に向けた決定草案に合意しました。これまで運営主体をめぐって主に
先進国と途上国で対立し、なかなか議論が進んでいませんでしたが、今回は最後のコンタクトグループで途上国グループが感謝の
意を述べたように、「皆の努力で建設的な議論が行なわれたおかげで、途上国にとって非常に重要な適応基金の合意に至ることが
できました」。補助機関会合で最終的に採択されれば、バリ会議での一つの重要な成果になります。
決定草案では、運営主体とその機能、運営主体となる理事会のメンバー、意思決定、事務局、受託機関、クレジットの資金化、
基金へのアクセス、組織運営とそのレビュー(見直し)などについて合意しています。
まず、運営主体としては適応基金の理事会が設置されることになりました。この理事会は、事務局と受託機関によって運用され
ます。
また理事会は、COPMOPの権限とガイダンスのもと適応基金を運用することになっています。今後はCOPMOPのガイダンスを経て理
事会が優先事項、ガイドライン、事業の承認、基金の監視、レビューなどについて検討・実施し、さらにその状況をCOPMOPに報告
するという形になりました。理事会のメンバーは、ナイロビで合意された通り、途上国が多数派を占めるように、国連の地域グル
ープから二人、小島嶼国から一人、後発開発途上国から一人、先進国(附属書T国)から二人、途上国(非附属書T国)から二人
で構成されることになりました。また、意思決定はコンセンサスに基づきますが、それでも合意できなかった場合には一国一票制
度が採用されています。
事務局は、先進国が拘っていたように、地球環境ファシリティー(GEF)が当面の間は運用することになりました。クレジットの
資金化を行なうクレジット受託機関に関しては世界銀行が当面の間は任されることになっています。これらの組織構成を含めて3年
後のCOPMOP6(2010年)では、締約国、国際機関、その他のステークホルダーの意見を考慮しつつ、適応基金の運用状況が見直され
ることになりました。途上国やNGOが懸念を示していた世銀やGEFが3年後以降も運用を任されるかどうかは、この見直しにかかって
います。
京都で設置されることが決まった適応基金が10年を経て、始動に向けて動きだすことができるのは、バリでの大きな成果になり
ます。既に様々な地域で地球温暖化の深刻な影響が起こっており、一刻も早くこの基金が脆弱な国の具体的な事業に資金を提供で
きるように運用されることが期待されています。
◆
化石賞、また日本
10日は午前中に先進国の更なる削減を議論する特別作業部会(AWG)のコンタクトグループが開催され、その発言でまた
日本は世界の環境NGOネットワーク(CAN=キャン)がもっとも後ろ向きな発言をした国に与える化石賞に選ばれました。
1位 サウジアラビア
議定書の見直し作業を行なう議論の中で、対応措置(化石燃料が売れなくなることによって起こる影響への対応)を考
慮するように求めたこと、また、他の見直しの議論をとめようとしたこと
2位 サウジアラビア
途上国グループの会議の中で、適応についての議論をしている際、対応措置について各国が妥協した後も、議論を前に
進めようとしなかったこと
3位 日本とカナダ
先進国の更なる削減を議論するAWGにおいて、将来の削減目標の内容や約束期間と基準年を見直すべきだと発言したこ
と。これらは総量削減目標を各国が自由に目標を設定するプレッジ&レビュー目標にしたり、約束期間を延ばしたり、都
合のよいように基準年をシフトさせようとする試みです。(もしこのような態度を続けるようであれば、さらに化石賞を
受賞することでしょう)