COP/MOP1通信 5



◆ 徹夜で続く交渉

 現在、モントリオールの時間で、12月10日(土)の午前1時を
回りました。
 11月28日から開催されていた気候変動枠組条約第11回締約国会
合(COP11)と京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)も、最終
日の深夜を迎えていますが、現在も交渉が続いています。
 12月9日の午前中から開催された、COP11とCOP/MOP1の総会で、
ほとんどの議題が採択され、残っているのは「長期的な共同行
動」との表題のCOP決定案と、COP/MOPの京都議定書3条9項の決定
案だけになっています。
 午後6時頃にいったん休憩に入った総会は、現在もまだ再開さ
れる様子はありません。今回も徹夜になりそうです。
 現在、提案されている京都議定書3条9項の決定案は以下のよう
な内容になっています。
 
(1)議定書3条9項に基づく先進国の2013年以降の目標について
の議論を開始する。
(2)この問題を討議するための特別作業グループを設立し、第1
約束期間と第2約束期間の間に空白が生じないように、可能な限
り早く、締約国会合(MOP)で採択できるように結論を出さねば
ならない。
(3)特別作業グループの第1回会合は、2006年5月の第24回補助
機関会合(SB)の際に開催する。
(4)締約国は2006年3月15日までに、3条9項についての意見を提
出する。

 また、COP決定案として提案されている「長期的な共同行動」
の内容は以下のとおりです。
 
(1)「長期的な共同行動」の要素には、開発目標の進展、適応
活動、技術、市場メカニズムの活用、などが含まれるべきであ
る。
(2)この対話を行う、すべての締約国に開かれた、条約のもと
でのワークショップを設置する。


◆ 妨害するアメリカ

 今回の会議では、アメリカの参加をどう考えるかが大きな争点
になっています COP/MOP1通信3 に掲載したように、アメリカの
参加のために気候変動対策全体を緩めるのか、アメリカにも席を
用意しながらも、京都議定書のプロセスを進めるべきかが、2013
年以降の制度設計の議論とも関連して問題になっていました。条
約の交渉も、京都議定書の交渉も、前に進めたくないブッシュ政
権は、この会議でも陰に陽に交渉を妨害しています。
 COP/MOP1通信4に掲載した、アメリカを暗に非難したカナダの
マーティン首相の演説にブッシュ大統領が怒ってしまい、カナダ
のディオン議長とアメリカの代表団とが会った際に、アメリカの
代表団はこの会議ではいかなる決定にもアメリカは参加しないと
断言したとの噂が流れています。
 また、12月8日から9日にかけて行われたインフォーマルな交渉
で、アメリカは席をたってしまったということです。
 最終日(12月9日)の今日の化石賞は1位、2位、3位ともアメリ
カでした。
 1位の受賞理由は、この2週間の会議の間、アメリカはモントリ
オールでの交渉を妨害し続けたこと。
 2位の受賞理由は、昨日の閣僚級レベルの会合において、他の
国が良い雰囲気の中で2013年以降の話をしようとしている時に、
前日にカナダのマーティン首相がスピーチの中で隣国アメリカに
対して批判したとして、席を立って出て行ったこと。
 3位の授賞理由は、夕方の閣僚級レベルの会合で、アメリカも
締約国である「条約」のもとでの2013年以降の対話も始めたくな
いと発言したこと。
 会議場では、京都議定書から離脱し、交渉の進展を妨げている
アメリカへの非難が高まっています。


◆ 適応対策についての議題を採択

 「5ヵ年計画」は2週目に入って水面下の議論に入り、現在は非
公開の会合において議論が続けられました。この計画は、地球温
暖化の影響の科学的、技術的、社会経済的側面における評価を
し、緊急に適応対策どのように行っていくのかということを決め
る上でのベースになる、非常に重要な行動計画と言えます。最後
までもめた点は、この5ヵ年計画の中に経済多様性の内容を組み
入れるかどうかということです。
 経済多様性とは、一つには、ある国の経済がビーチリゾートな
ど観光産業のみに頼っていて、海面上昇などの気候変動の影響を
受けることによって、大きな経済的影響を被ることをできるだけ
やわらげるために経済を多様化させようということです。あるい
は、例えばある国の経済が石油のみに頼っていて、気候変動の対
策を進めることによって経済的悪影響を受けるのをできるだけ避
けるための対策のことを指します。
 現在の交渉で5ヵ年計画に経済多様性を組みこもうとしている
のは後者の対策を促したいサウジアラビアです。しかし、通信1
でも述べたように、昨年のCOP10においてまとめられた「適応と
対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」においては、サウ
ジアラビアをはじめとする産油国が求めるこのような対策は、5
ヵ年計画とは別に議論されることになっていました。特にサウジ
アラビアは、ここにきてあらゆる場面でこの問題を取り上げるよ
うに主張していましたが、適応計画では実質的にはそこに焦点が
当てられないことになりました。


◆ 資金問題についての議題も採択

 資金の関係では、条約の下の基金である、後発開発途上国基金
と特別気候変動基金に関しては、合意に至りましたが、京都議定
書の下の適応基金は、合意に至りませんでした。条約の下にある
2つの基金への先進諸国からの資金提供は任意のため、いつも資
金不足であるという点が問題としてあがってきました。これに対
して適応基金は、CDM事業の2%が収入として基金に入ってくるこ
とになっています。
 もちろん、適応基金もそれだけでは基金は足りず、資金不足も
懸念されていましたが、今回最も懸念されたのは、この適応基金
をGEFが運用するかどうかという問題です。資金がアクセスしに
くいことなど、途上国のGEFに対する深い不信感を募らせている
ため、MOPがGEF以外の機関に基金を任せるべきだという主張が途
上国側からあがっていました。しかし、結果としてはGEFが運用
するかどうかというところは合意できず、適応基金がMOPのガイ
ダンスの下でMOPの責任の下で機能することになりました。しか
し詳細は次回のSBに持ち越され、各国が2006年2月13日までに、
適応基金の支援対象、評価基準などに関する意見を提出すること
になっています。


◆ CDM改革の議論

 CDM改革の議論は、MOP総会でCDM理事会からの現状報告がなさ
れてから始まりました。総会で議論があった後、1)2013年以降
のCDMの継続などに関するCDM全体に関わる議論、2)理事会やサ
ポートする組織などのCDMガバナンス、3)方法論と追加性、4)
地域分布と実施能力向上、5)CDM理事会の運営資金、の5つの枠
組みに基づいてコンタクトグループで議論されました。
 2013年以降もCDMを継続させていくことに関しては、合意がな
され、決定文書にも文言が入りました。これによって長期的な視
野に基づいてCDMを促進させていくための足掛かりができたこと
になります。
 1)の議論では、炭素回収・貯留技術(CCS)をCDMとして考慮
していくかどうかが争点となりました。日本やカナダはCDMでも
やりたいと望んでおり、特に日本は特定の技術がよいか悪いかと
いうことはここで判断すべきではないという主張を繰り返してい
ました。決定文書では、ワークショップを開催し、CCSをCDM事業
として入れていくかどうか検討していくことが確認されました。
 3)では、プロジェクトの追加性を証明するための方法の改正
が主な争点となりました。途上国で行われたプロジェクトが、
CERによる収入なしには行われなかったと証明される場合、その
プロジェクトが追加的であるといいます。追加性を証明するため
のツール(以下、追加性ツール)はCDM理事会から提示されてい
るのですが、そのツールに基づいた証明が複雑で、プロジェクト
参加者にとっての負担が大きいことから、改正案が求められてい
ました。議論の結果としては、追加性の改正に対してCDM理事会
がパブリックコメントを募ることになりました。しかし、CDM事
業が行われやすくするためだけに追加性が緩められるべきではな
く、CDMとして成り立つためにはしっかりとした環境十全性を考
える必要があります。また、この問題はCDM事業の認証などが非
効率的であるということと一緒に持ち出されますが、それは追加
性の問題ではなく、大きくはCDM理事会を運営するための資金不
足の問題といえます。
 4)に関しては、事業が行われる地域はアジアではインド、南
米ではブラジルに大きく偏っているため、アフリカ諸国から不満
の声があがっていました。決定文書では、そのような地域格差を
生じさせている原因を締約国がCDM理事会に提出し、COP/MOP2で
問題解決のためのオプションを検討することが決められました。
また、特に島嶼国や後発開発途上国がCDMに参加しやくなるよう
に、附属書I国が能力構築や資金提供を行っていくことの必要性
が再確認されました。
 最後に、5)に関して、CDM理事会の資金不足を補うために、
CER収益の一部を徴収することが決定されました。年間CER発生量
のうち、15,000t-CO2までは、t-CO2あたり0.1USドルを、
15,000t-CO2を超える分に対しては0.2USドルを徴収することが決
定されました。後者の0.2USドルの課金率の引き下げについて、
CDM理事会の運営資金が黒字になった場合に限り、COP/MOP2で検
討されることになっています(ただし0.1USドル以下になること
はない)。


◆ 閣僚級会合でのCANの演説

 12月9日の総会で、世界の環境NGOを代表して、気候行動ネット
ワーク・カナダ(CANカナダ)のスティーブン・ギルバードが以
下のステートメントを行いました。

「一部の有名な例外」

 気候行動ネットワーク(CAN)を代表して、本日世界の市民社
会の声を届けるために、このような機会を与えて頂き感謝いたし
ます。
 議長、ここモントリオールに集まった全ての締約国は、一部の
有名な例外を除いて、気候変動対策の国際的な努力を一層強化す
る意思を表明しました。
 この会場に集まった全ての締約国は、一部の有名な例外を除い
て、先進工業国の温室効果ガス排出量の大幅削減へ向けて前進す
ることを望んでいます。
 その一部の有名な例外を除いた全ての締約国は、「共通だが差
異ある責任」に基づいて、全ての締約国が気候変動による脅威に
立ち向かうために、公正な負担を負うべきであることを認識して
います。
 その一部の有名な例外を除いた全ての締約国は、生命と市民の
幸福を脅かす、現在及び将来の気候変動の影響を認識し、発展途
上国への精力的な支援措置を要求しています。
 本会議に参加している全ての締約国は、新たな炭素市場の開発
を望んでいます。また、産業界に対して、2012年12月31日以後に
安定した、そして予測可能な事業環境を保証できることを望んで
います。
 本会議に参加している全ての締約国は、CDMの改善と成功、そ
して発展途上国への技術移転促進を支援しています。
 繰り返しますが、一部の有名な例外を除いて私たち全員は、京
都議定書が唯一の国際的なメカニズムであり、微妙な均衡のもと
で、人類が直面している最大の驚異に立ち向かう最初の答えを示
す唯一の足掛かりであることを認識しています。
 気候は変動しています。私たちの社会も動いています。無限の
可能性を有する、まさにこの大陸で、先住民、若者、労働者、ビ
ジネスマン、宗教団体、そしてあらゆる立場の政府関係者が声を
高らかにし、都市、州、産業界や市民社会において積極的に変化
を作り出しています。
 それらの揺ぎない声を前にして、最も影響力があり、かつ最も
頭の固いあの政府を含めて、一体どこの政府が、これ以上世界の
要求を拒否し続けることができるでしょうか。
 ここに参加した全ての締約国は、一部の例外を除いて、人類へ
の危険な気候変動を回避するという目的を共有しています。私た
ちは、この会合で、短期的・長期的に必要となる温室効果ガスの
排出量削減を達成するための基盤となるように、京都議定書の枠
組みを強化することを求めます。
 また、私たちは、京都議定書が、将来、全ての締約国が温暖化
対策の枠組みに入ってこられるように十分に開放的で柔軟である
べきだと考えます。京都議定書は、持続可能な発展に必要な技術
や、気候変動へ適応するために要する資源へのアクセスを発展途
上国に保証する唯一の枠組みです。私たちはまた、京都議定書が
市場制度や柔軟性メカニズムといった必要な制度が育つための枠
組みであるとも信じています。
 最も聡明で見識のある人々によって代表された、ここに集まっ
た全ての締約国は、何も行動しないことが選択肢にはないことを
理解しています。一部の有名な例外によって、大多数による作業
が無力化されることを受け入れることはできません。ここモント
リオールで行き詰まることは想像できません。実質的な措置に結
びつかない、希釈された無意味な決定は想像できません。確固た
る集団行動こそが唯一の方向性なのです。
 前進することに失敗することは後退することなのです。
 このモントリオール会合を去るときには、この地球上の人々と
国々を代表する者として、過去10年間に築いてきた土台に基づ
き、決して後戻りすることなく、気候変動に立ち向かう人類の努
力を具体化せねばなりません。



◆ 会議場から

 今回の会議には北米で開催されたこともあってか、いつもより
多くの環境NGOが会議に参加しています。気候変動問題の国際交
渉では、CASAも参加する気候行動ネットワーク(CAN)という世
界の約360の環境NGOが参加するネットワークが活動しています。
 CANは、気候変動問題を解決するためのNGOの戦略をたて、実行
するロビー活動が主たる活動です。具体的には、文字どおり会議
場のロビー(廊下など)で、政府関係者などをつかまえて情報収
集したり、「eco」というニュースを発行したり、その日の会議
でもっとも後ろ向きの発言や行動をとった国に対し「今日の化石
賞」を授与したりしています。
 そのために、会議中、毎日午後2時〜3時にミーティングが行わ
れるだけでなく、会議の前と中間の日曜日に戦略会議をもって、
情報交換やロビー戦略などが話し合われます。日本の環境NGO
も、毎日集まって情報交換をしたり、日本政府にロビー活動を
行ったり、日本から来ている記者へのブリーフィングを行ったり
しています。
 また、会議中に必ずパーティが企画され、このパーティには政
府の代表団からもたくさんの人が参加します。


(CANのディリーのミーティングの様子)



(記者へのブリーフィング)


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