COP/MOP1通信 1


◆ COP11・COP/MOP1 開会

 11月27日午前10時40分、カナダのモントリオールの国際会議場
で、国連気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)と京都議
定書第1回締約国会合(COP/MOP1)が開会しました。今回の
COP11・COP/MOP1は、京都議定書が発効して初めての会議でもあ
り、また、京都議定書3条9項が2012年以降の削減目標と制度につ
いての議論を、このCOP11・COP/MOP1で始めるよう規定している
こともあり、極めて重要な会議になっています。




◆ COP/MOP1までの道のり

 京都議定書は1997年12月に京都で開催されたCOP3で採択されま
した。しかし、削減目標は決まったものの、その運用ルールにつ
いてはほとんど議論ができず、翌年アルゼンチンで開催された
COP4で、COP6までに京都議定書の運用ルールを決めるとするブエ
ノスアイレスアクションプランが合意され、運用ルールの議論が
始まりました。
 2000年11月にオランダのハーグで開催されたCOP6は、森林など
の吸収に関する日本、アメリカ、カナダの提案をめぐって合意が
できずに決裂し、2001年7月にCOP6再開会合が開催されることに
なりましたが、COP6再開会合の直前にブッシュ大統領が京都議定
書から離脱を宣言してしまいました。ドイツのボンで開催された
COP6再開会合でようやく運用ルールについての政治的合意(ボン
合意)が成立し、同じ年の11月にモロッコのマラケシュで開催さ
れたCOP7でようやく議定書の運用ルールについての合意(マラケ
シュ合意)が採択されました。
 2002年8月に南アフリカのヨハネスブルグで開かれた持続可能
な開発に関する世界首脳会議(WSSD)で京都議定書の発効が目指
されましたが、ロシアの批准が遅れ、今年2005年2月16日によう
やく京都議定書は発効しました。


◆ COP/MOP1の課題

 COP/MOP1の課題は、以下のとおりです。

 1. マラケシュ合意を採択して、京都議定書を実施可能にする
   こと。
 2. マラケシュの宿題である遵守制度の不遵守の措置(帰結)
   に対する法的拘束力の問題についての決着をつけること。
 3. 2013年以降の削減目標と制度について議論を開始し、いつ
   までにその議論を終えるかについての道筋を決めること。

 京都議定書の運用ルールであるマラケシュ合意は、COP/MOP1で
採択されてはじめて、その効力を持つことになります。マラケ
シュ合意の採択に反対している国はありませんが、日本がマラケ
シュで強硬に反対し宿題として残してしまった、遵守制度の不遵
守の措置(帰結)に対する法的拘束力の問題が波乱要因になって
います(詳細は後述)。
 2013年以降の削減目標と制度設計の問題は、少なくともこのモ
ントリオールで議定書3条9項に基づいて議論を開始するととも
に、いつまでにその議論を終了するかに合意する必要がありま
す。本来、京都議定書の第1約束期間が始まる2008年より前の
2007年末までに議論を終える必要があります。なぜなら、第1約
束期間が始まって削減目標の達成が困難な国が、高い削減目標の
設定の足を引っ張る恐れがあるからです。しかし、2007年に気候
変動に関する政府間パネル(IPCC)が第4次評価報告書を準備し
ていることを考えると、2008年末までに議論を終えるというオプ
ションが現実的かも知れません。
 COP3で京都議定書が採択できた大きな要因は、COP3までを交渉
期限とするCOP1のベルリンマンデートであった経験に学ぶなら、
今回も交渉の終期を明確に決めることが決定的に重要です。この
2013年以降の削減目標と制度設計に議論については、決議か宣言
の形で今後の道筋をつける方向が模索されていますが、決議にし
ても、これを気候変動枠組条約の締約国会議(COP)の決議にす
るか、京都議定書の締約国会合(MOP)の決議にするかの問題が
あります。MOPの決議なら議定書を批准してないアメリカは参加
しないことになりますが、COPでの決議なら当然アメリカが議論
に参加することになります。アメリカの参加をどう考えるかに
よって、また、途上国をどう議論に巻き込もうと考えるかによっ
て議論が分かれることになります。気候変動問題に取り組む世界
の環境NGOのネットワークである気候行動ネットワーク(CAN)
は、条約のもとで削減目標を議論することを狙っている国々のな
かに、先進国の削減目標を強化するのではなく、より緩やかな目
標にすることを考えている国があることもあって、京都議定書の
もとで議論をすべきだと主張しています。


◆ 遵守手続の法的拘束力に関する決定について

 COP7のマラケシュ合意で、遵守手続のもとで遵守委員会が不遵
守国に課す措置(帰結)については合意しましたが、この措置が
法的拘束力をもつものにするかどうかについては、日本などが強
硬に反対したため、COP/MOP1に先送りされました。マラケシュ合
意は、COP/MOP1で遵守に関する手続及び制度を採択することを勧
告しています。
 法的拘束力とは、締約国が課された措置に従わないときに国際
法違反となることを意味します。ここで問題となっている法的拘
束力は、京都議定書の法的拘束力の問題ではなく、あくまで遵守
制度のもとで不遵守国に課す措置について法的拘束力を与えるか
どうかの問題で、京都議定書が法的拘束力をもっていること、す
なわち、議定書の削減目標は法的拘束力があり、削減目標が達成
できないと国際法違反になることは争いがありません。
 マラケシュ合意は、不遵守国に課す措置として、@超過排出量
の1.3倍の次期約束期間からの差引、A遵守行動計画の策定、B
排出量取引制度のもとでの移転の禁止を決めています。ここで問
題となっているのは、こうした措置に法的拘束力を持たせるかど
うかの問題です。すなわち、こうした措置に従わない場合に、法
的拘束力をもった措置なら国際法違反になり、法的拘束力がない
措置なら従わなくても国際法違反にならないことになります。し
かし、前記の@とBの措置については、従わないと京都メカニズ
ムへの参加資格が停止してしまうため、京都メカニズムを利用し
ようとする国は措置の法的拘束力の有無にかかわらず措置に従う
ことになる可能性が高いため、@とBについては法的拘束力があ
ろうとなかろうと、遵守促進効果は同じようなものになると思わ
れます。
 今回のCOP/MOP1では、不遵守国に課す措置に法的拘束力を与え
るべきかと関連して、どういう方法で遵守手続を採択するかが問
題となっています。措置が法的拘束力を持つためには、議定書18
条に基づいて改正で手続を採択する必要があります。COP/MOP1決
定で採択すれば法的拘束力のない措置を有する遵守制度となりま
す。COP/MOP1決定と議定書20条に基づく改正の異同は表のとおり
です。
 CASAは、遵守制度の不遵守の措置に法的拘束力を持たせること
が必要だと考えますが、法的拘束力のある遵守制度にするには議
定書の改正しかなく、それでは批准手続が必要になり、遵守制度
がいつ利用可能になるかわからないため、まずCOP/MOP決定の形
で遵守制度が機能するようにすることが必要と考えます。そのう
えで、遵守制度の措置に法的拘束力を与える議定書の改正を議論
すべきであると考えています。
 この問題でサウジアラビアが、COP/MOP1決定ではなく、議定書
の改正で採択を行うべきだとの提案をしており、もしサウジアラ
ビアが改正をあくまで主張してCOP/MOP1決定に反対すると、コン
センサスで採択が必要なCOP/MOP1決定はできないことになりま
す。サウジアラビアが、この問題を人質にして、何を取ろうとし
ているのか、どこまでごねるのかが会議の行方を不透明にしてい
ます。11月30日(水)にこのマラケシュ合意の採択が議題として
扱われることになっています。



◆ 2013年以降の削減目標と制度設計についての議論

 今回のCOP/MOP1では、2013年以降の削減目標と制度設計につい
ての議論を始めることを合意することで精一杯で、内容の議論に
までは入れないのではないかとの観測が一般的です。しかし、す
でに2013年以降の削減目標と制度設計についての議論は、様々な
形で始まっており、前述したように京都議定書の基本的構造を変
え、先進国の削減目標を強化するのではなく、より緩やかな目標
にしようとする動きがあります。日本の経済産業省や一部産業界
の議論もこうした動きの一つです。
 CASAは、少なくともCOP/MOP1で明確な終期を定めた交渉の開始
に合意すべきだと考えています。そして、早急に内容的な議論を
開始すべきだと考えています。最近の状況は、気候変動が急速に
進んでいることを示唆しています。残された時間は少ないことを
理解すべきです。
 CASAは、2013年以降の削減目標と制度については以下のような
方向をもったものでなければならないと考えています。
(1) 2013年以降の削減目標は、当然に第1約束期間の削減目標
を上回るものでなければならない。
(2) 2013年以降の制度は、京都議定書の基本的構造である、法
的拘束力、5年程度の短期の総量削減目標、遵守制度などが引き
継がれること。
(3) 削減目標が、客観的な指標に基づいて自動的に決まるよう
なものにすること。
 途上国の約束については、先進国と同じものである必要はない
と思います。条約や議定書の基本的理念である「共通だが差異あ
る責任」からしても、CANが主張するように、途上国それぞれの
事情や発展段階を考慮して、段階的に京都議定書のシステムに参
加できるようにすることが京都議定書のもとでも可能だと考えま
す。


◆ その他の論点

 今回の会議で議長国であるカナダが力を入れている論点は、
CDM、適応対策、技術移転です。


◆ CDM改革の議論

 カナダ政府が今年9月に出したモントリオール会議の閣僚級会
合のためのディスカッションペーパーによれば、CDMに関してモ
ントリオールで強化したい内容として以下の点をあげています。
@ CDM理事会の運営体制の強化と合理化
A CDM事業の方法論と事業登録の促進
B 持続可能な発展というCDMの目的の重視
C 十分な資金の確保
 Aの背景には、CDMで登録された事業が少なく、審査のプロセ
スにあまりにも長い時間がかかるという企業や政府関係者からの
強い不満の声があります。特に、申請される事業を行うことに
よって事業がなかったよりも追加的に削減しているかどうかを証
明するのが難しいとして、日本、カナダ、インドなどが追加性の
基準を緩めて事業審査の能率をあげるようとする動きが強くなっ
ています。
 また@やCは、現在のCDM理事会の資金・人員が不足している
ため、専従スタッフを雇い、体制の補強が必要だとしています。
これに関しては、今回の会議でカナダの提案を待たずして、CDM
理事会において資金不足が議論され、CDMで発行されるクレジッ
ト(CER)当たり$0.2を理事会の運営費としてまわすことが決定
されました。
 Bに関しては、現在CDM理事会に提出されているプロジェクト
から生まれるCERの多くはHFC、N2Oやメタンを削減するものであ
り、多くの途上国が持続可能な発展のために進めたいと考えてい
る再生可能エネルギーや省エネプロジェクトからのCERが少ない
現状があります。しかし、CDMの目的は先進国の排出削減だけで
はなく、途上国の持続可能な発展を促進することにもあります。
途上国側には、価格の安いこれらのプロジェクトからのCERが市
場に蔓延することで、実施費用のかかる再生可能エネルギーなど
のプロジェクトがさらに実施しにくくなる状況になるとの懸念が
あります。
 これまで、このようなCDM改革に関しては非公式な議論がなさ
れてきました。今回、カナダはこの議論を公式な場で進め、CDM
改革の舵を取ろうと模索しています。現段階では、その提案がど
のような形でなされるのかがはっきりと見えませんが、少なくと
も追加性に関しては、その基準は厳格なものでなければ目標達成
のための抜け穴となりかねず、事業によって削減が追加的にでき
ているという厳格な証明を求めていく必要があります。また、途
上国の主張するように持続可能な発展に繋がるCDM事業が登録さ
れるための方法も考えていく必要があります。
 以上のように、CDM改革は途上国、先進国の企業、政府関係者
の間で大きな問題として非公式な場で議論されていますが、それ
ぞれが描く「CDM改革」のその中身と方向性は、実は大きく異
なっています。


◆ 適応対策

 昨年のCOP10において、これまで会議の様々な場面で議論され
ていた適応の議論が「適応と対応措置に関するブエノスアイレス
作業計画」として一つのパッケージとしてまとめられました
http://www.bnet.jp/casa/cop/SB22/sb22.htm)。カナダはこ
の下での「影響の科学的、技術的、社会経済的側面と、気候変動
に対する脆弱性と適応対策の5カ年計画」の中身を今回のCOPで決
定する予定です。5ヵ年計画については、10月にドイツのボンで
非公式なワークショップが開催され、@影響と脆弱性、A適応計
画・対策・行動、B他の政策との統合の3つのテーマで構成する
ことで、おおよそ議論がまとまりました。方法論、データ、モデ
リングに関しては、これらのテーマに対する横断的事項としてと
らえられています。また、これまで緊急の対策を必要とする島嶼
国が、対策をまず実施していくことが必要と訴えていたのに対し
て、EUや日本は脆弱性に関する評価をまず行う必要があるとして
いましたが、この計画の中で短期的に必要な対策と長期的に考え
ていく必要があるものを分けて考えて進めていく“two line”ア
プローチを事務局が提示し、打開策を図りました。
 この非公式ワークショップでの議論の進展が公式な議論の場で
反映されれば、第22回補助機関会合(SB22)での議論より前に進
むのではないかと考えられます。一方で、適応対策を動かすため
には、適応対策を進めるための基金への資金確保が最も重要で
す。今回は条約の下にある気候変動特別基金、及び後発途上国基
金に加えて議定書の下の基金である適応基金の議論が始まりま
す。適応基金にはCERの2%が自動的に入ってくる仕組みになって
いますが、この資金がどこに使われるのかということについて
は、他の基金と同様に注意を払う必要があります。


◆ 技術移転

 技術移転については、カナダがどのような方向に持っていきた
いかという具体的な提案はなされていません。しかし、SB22で
MOP2 で炭素固定技術の議論を開始したいとカナダが提案したよ
うに、将来の技術に関しての議論は近々活発になってくると予想
されます。この1年でも、条約交渉の場とは別の場所で様々な議
論や動きがありました。一つはG8でのダイアログにおける技術開
発の促進の議論、また、7月末に発表されたオーストラリア、ア
メリカ、日本、インド、中国、韓国などが参加する「クリーン開
発と気候のためのアジア・太平洋パートナーシップ」などです。
気候変動の議論が様々な交渉の場などで議論されることは必要な
ことでもある一方で、京都議定書の代替プロセスとして技術協定
をすすめるアメリカに利用される危険性もはらんでいます。アメ
リカは各地域や国と気候変動対策に関する以下の4つの分野にお
ける技術開発のパートナーシップを結んでおり、議定書のような
総量削減義務ではなく、将来の技術革新の問題に論点をすりかえ
ようとしているように思われます。
・ 炭素隔離リーダーシップ・フォーラム(CSLF: Carbon
  Sequestration Leadership Forum)
・ 水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE:
  International Partnership for Hydrogen Economy)
・ 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF:
  Generation IV International Forum)
・ メタン・パートナーシップ(Methane-to-Markets
Partnership)
 今回の会議では技術移転の他にIPCCより炭素固定貯留特別レ
ポートの報告があり、各国の意見が注目されます。


◆ CASAのポジションぺーパー

 CASAでは、今回のCOP11・COP/MOP1に向けて、「COP/MOP1と日
本の責任」を発表
しました。


◆ 厳寒のモントリオール

 モントリオールに到着した11月26日午後5時30分(現地時間)
の気温はマイナス5℃でした。寒いときはマイナス25-26℃にまで
気温が下がるとのことです。ここ数日は温かい方だとのことです
が、それでも朝方は道路が凍って、滑って転倒する会議参加者が
続出しています。こうしたこともあって、モントリオールは地下
街が整備されており、市内のたいがいの地域は地下街でつながっ
ています。
 会議の開催を祝って(?)、氷の地球が町中に展示されていた
り、会議のロゴの入ったケーキが振る舞われていたりしていま
す。残念ながら、時間が無くてケーキは食べ損ねました。





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