「長期的協力のための行動に関する対話」(2/2)


2006.5.16 ボンにて 大久保ゆり

◆ 「長期的協力のための行動に関する対話」報告

  2005年5月15日、ドイツのボンで気候変動枠組条約の下での「
長期的協力のための行動に関する対話(dialog on long-term
cooperative action)」が開催されました。会場は結婚式の披露宴
(!)のように丸テーブルが並べられ、議長を前にして教室形式
で行われる普段の交渉とは違いリラックスした雰囲気で開催でき
るようにアレンジされていました。対話の共同ファシリテーター
は直前まで決まっていませんでしたが、オーストラリアのHoward
Bamsey(ハワード・バムジー)氏と南アフリカのSandea de Wet
(サンディ・デ・ウェット)氏が選出されました。


1.環境NGOの期待


  CASAも参加する世界の360以上の環境NGOで構成されている
気候行動ネットワーク(CAN)は、会議場で発行しているニュースレ
ター「eco(エコ)」で、前回のモントリオール会議での勢いを
継続させるべきだとして、南北間の協力を呼びかけています。モ
ントリオールでは、最悪の影響を避けるために誰が対策を進めて
いくのか、低炭素型発展のための道筋をどのようにつけていくの
かといったことを決めるための土台が築かれました。その一つが
今回の「対話」です。
  地球の平均気温上昇を工業化以前から2℃未満に抑えるために
は、今後10-15年で温室効果ガス排出のピークを迎え、できるだ
け早く排出量を下げなければなりません。そのためにも、今回ボ
ンで始まった2013年以降の目標や対策に関する議論は少なくとも
2008年までに終える必要があります。CANは、ボンで何時までに
議論を終えるかの明確な期限を定め、今後数年間の作業計画を決
めるように訴えています。


2.対話の結果


  初日は、締約国が4月15日までに事務局に提出していた意見の
概要を報告し、それに対しての質問やコメントを受け付けるとい
う形式で始まりました。また、意見を提出しなかった国もそれぞ
れの見解を述べる機会が与えられました。2日目は国内外での責
任をどのように果たすか、技術の研究・発展・普及の促進、途上
国の自発的緩和対策、途上国への適応技術や環境によい技術の移
転について意見交換が行われました。

強調されたポイント

1)持続可能な発展計画/目標と気候変動対策との統合の重要性
  スウェーデン、南アフリカなどの国々が、国の発展計画の中に
気候変動の観点を入れることの重要性を指摘し、気候変動対策と
は持続可能な経済発展を目指す課程そのものであるという認識が
示されていました。
  インドは、貧困から脱し、人々の基本的生活を行うために必要
なエネルギー消費量を具体的に数値で表したプレゼンテーション
を行いました。インドのエネルギー消費が今後増加することが示
された一方で、先進国のようなエネルギー大量消費型発展を後追
いしない形での発展が目標とされている点が強調されていました。

2)市場メカニズムを活用した(適応)技術の移転と適応資金の確保
  チリ、スウェーデンなど多くの国が市場メカニズムを活用した
技術移転の推進に言及していました。一方、ウガンダやタンザニ
アなどアフリカの国々からは、現在の市場メカニズムでは参加で
きる国が限られていることを懸念する意見が出されていました。
  また、ツバルを含むいくつかの国々は、適応技術の移転を進め
るためには新しい資金の流れが必要であると主張しました。他の
途上国からは、適応技術の移転だけでなく適応策のための資金確
保をどのように行うかという点についても関心が示されていまし
た。

3)条約を前に進めるための南北間の”solidarity(連帯意識)”
  日本は、特に途上国に対して、対策を進める上での”solidarity
(連帯意識)”を呼びかけ、フランス、オーストラリア、ツバル、
アメリカが日本のsolidarityという言葉を引用してその重要性を
指摘しました。それに対してサウジアラビアからは、先進国側の
連帯意識の方が重要であり、「連帯意識」や「すべての国」という
言葉を使うことによって、途上国にも排出抑制や削減を強いるべき
ではないと強く主張していました。
  一方、パプアニューギニアやブラジルは、途上国が自発的に緩
和策(温室効果ガスの排出削減対策)を行う道を歩むことができ
ることについて言及し、パプアニューギニアは、森林減少の対策
を行うことで炭素クレジットが得られるようにするべきだと主張
しました。ブラジルや南アフリカなどの国々が、対策を進めるた
めにはポジティブなインセンティブが必要だと発言したことにつ
いては、ECが市場メカニズムの可能性と企業の役割について
言及しました。ECは、世界銀行の報告書によれば2005年には
炭素市場が100億ドルに達し、条約の下で締約国が過去14年
間に地球環境ファシリティー(GEF)で支出した18億ドルに比べ
て莫大な資金が動いており、対策が進みつつあるとしています。

4)中長期目標の設定
  スイス、タイ、スロベニア、EU、日本、ブラジルなどの国々は
、条約の究極の目標に言及し、温室効果ガス濃度の安定化や、そ
れを達成するための長期的な視点が重要であると発言しました。
ブラジルやスロベニアはEUの2℃目標にも触れています。
  小島嶼国連合(AOSIS)やカザフスタンは、既に地域にとって
の危険なレベルは超えてしまっており、地球の平均気温が2℃も
上昇すれば、より大きな影響が懸念されると、発言していたのが
印象的でした。

5)他の交渉課程とのリンク
  日本、EU、ロシアは、この対話が、先述の特別作業部会、及び、
今年開催される京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)で議論
される9条の議論とリンクされるべきであると主張していました。
  9条は、京都議定書全体の見直しを行う条項であり、将来の途上
国の排出抑制や削減の可能性を含む、議定書の全体構造を議論で
きる条項です。しかし、サウジアラビア、ブラジル、中国は他の
交渉とのリンクを否定し、サウジアラビアと中国は、議定書と条
約の構造を変えるべきではな いと付け加えていました。


3.日本政府の発表とコメント


  日本政府の対話に対する見解の発表は、基本的に事前に提出さ
れていた意見に示されている内容に沿ったもので、その中で4つ
の期待をあげて報告していました。
(1) 適切な時期にGHG濃度を安定化させるという条約2条につい
    て、より内容を深めること。すべての大量排出国が対策を
    とること
(2) 長期的に努力を続けるための長期目標をたてること
(3) 特に脆弱な国への適応策を促進すること
(4) 実質的なアプローチへの転換。批判ではなく奨励する形で
    の対策の実行
(5) 技術の重要性を認識すること

  また最後に、今の状況は1992年当時とは変わっており、分裂で
はなく新しい”solidarity”が必要であると訴えました。
  モントリオールでの日本の立場は欧州連合(EU)と似ていまし
たが、対話では、日本がより途上国の対策推進についての発言を
強めています。


4.今後の「対話」

  今後の進め方については、共同ファシリテーターが各国への質
問事項を提案し、各国がその質問に答える形で次回の対話を進め
ていくというやり方をアメリカが提案し、他の国々にも支持され
ました。ファシリテーターは、8月末までに次回の対話について
の提案をまとめることにし、各国に5月末までにアイディアを提
出するように求めました。
  次回の対話はケニアで開催される気候変動枠組条約第12回締約
国会議(COP12)と同じ会場で並行して開催されます。

 対話のオープニングでは、カナダの環境大臣が、著しい気温上
昇と氷の融解が進む北極地域の適応策を進める必要があることに
ついて述べました。しかし、氷がなくなったときの北極グマの適
応策はおそらくないでしょう。
  第1回目の対話は、ノルウェーが最後に発言したように、比較的
建設的な意見と情報交換が行われたと言えます。しかし、多くの
国が言及した条約の究極の目標を目指すためには、この対話にお
いて大幅削減の道筋を描くための具体的な提案と結論をできる限
り早く出していく必要があります。


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