政府専門家セミナー

2013年以降(第2約束期間)を議論するための準備始まる―

 

2005年5月17日 大久保ゆり(CASA事務局)

 

5月16日から2日間、ドイツのボンで「政府専門家セミナー」が開催されました。これまでの京都議定書をめぐる議論は、2008〜2012年(第1約束期間)に関するものであり、2013年以降、どのような枠組みで気候変動の対策を進めていくかということに関しては、議論がなされてきませんでした。しかし、議定書の3条9項には、2005年には2013年以降の枠組みについての議論を始めなければならないとされています。つまり、今年は、国際交渉において今後の枠組みを決めるための議論が公式に始まる重要な年になります。

1.セミナー開催に至る経緯

セミナーの開催は、昨年の気候変動枠組条約第10回締約国会議(COP10)の開催地であったアルゼンチンが、2013年以降の議論を始めるために提案したもので、COP10での隠れた議題になっていました。COP10では、そもそもこのセミナーで将来枠組みの議論をするのか、議論を公式の交渉プロセスにつなげていくのか、というのが最も大きな論点になり、非公式に議論が進められていました。各国の意見は簡単にまとめると以下のようなものでした。

EU(他、日本など):このセミナーで将来に関する意見交換を行い、結果をCOP11で報告して公式の議論に繋げていくべき

◆アメリカ:現在の約束を実施するための情報交換を行うことに限定し、将来の枠組み、行動計画については話さず、結果報告も行わない

◆途上国(G77/中国):(産油国の主張が強く反映され、)アメリカの主張とほぼ同様。また、特にインド、中国、ブラジルが、このセミナーが途上国に削減目標を課すことに繋がる議論にならないように強く主張。

最終日の徹夜の議論の結果、セミナーでの内容は条約及び京都議定書の下での将来の交渉、約束、プロセス、枠組みや行動計画に発展させないという前提で、以下のテーマで開催されることが決まりました。

a) 締約国による気候変動への効果的で適切な対応の進展を助けるような、緩和策・適応策に関連する行動

b) 気候変動枠組条約及び京都議定書における既存の約束の履行するために、各国政府によって採られている政策措置

 この決定を受けて開催されたのが、今回の「政府専門家セミナー」です。

 

2.セミナーのプレゼンテーション

 セミナーは、4カ国ずつのプレゼンテーションの後に質疑応答が続く形で、2日間に渡って27カ国が報告をしました。日本外務省の小西大使とマレーシアのChow気象局長の2人の議長が、各国がざっくばらんに話ができるように努める中、よい雰囲気で進められていました。

 

(1)印象に残った途上国の前向きな姿勢

意外にも、このセミナーを通して議論をリードしていたのは、途上国であったという印象を受けました。EUは、どちらかといえば排出量取引や技術移転の議題に絞って細かい話をし、今後の枠組み関して強いリーダーシップを見せる場面はありませんでした。これは、自分たちだけが前に走っていると印象付けないための戦略的なものだったようです。日本と同様、他国の出方の様子をみるために一歩下がって見ていた感があります。

それよりも、やはりこのセミナーにおいて2013年以降の話、特に途上国に削減目標を課すような議論にはしたくないと強く主張をしていたインド、中国、ブラジルの3大国を含めた途上国が、全体としては、既に対策に取り組み始めている、あるいはしようとしているといった前向きな報告が印象に残りました。

 中国は、自分の国はまだ発展途上であるが、確実に経済成長が進んでおり、そのために省エネを進める必要があると述べました。また、最も優先される政策として、@人口一人あたりのエネルギー使用量を減らすこと、A再生可能エネルギーと原子力発電の推進をあげていました。

ブラジルは、発展途上国の生産・消費パターンを変えていくことが必要であり、先進国がそれを支援する必要について強調していました。特にブラジルにとってクリーン開発メカニズム(CDM)が非常に重要であり、CDMによる技術移転などを進めることによって経済発展のパターンを変えていけるとし、CDMへの期待が表れていました。

 インドは、温室効果ガスの排出削減と途上国支援という先進国の義務が果たされていないこと、自国では既に緩和対策を進めていることを強調していました。また、温室効果ガスの排出量が少ないのは、貧しいからというだけではなく、先進諸国とライフスタイルが違い、インドの方が持続可能な生活をしていることを、廃棄物から出る温室効果ガスの違いを比べるグラフなどを使って報告していました。

これらの報告の中でインドだけは、自分たちの排出量は少ない、先進国の義務が果たされていない、というところに重点を置いた報告で、だから今後も先進国だけが削減目標をかかげてやるべきという趣旨の、いわば従来の路線と同じ報告でした。しかしそれが少し異質に思えるほど、他の途上国の報告も建設的な議論を生み出す報告がなされました。サウジアラビアも、もちろんこれまでと同様に産油国としての経済の多様化の問題など、自分たちの主張を前に押し出した報告でしたが、その場の雰囲気を壊して、今後の枠組みを議論するのに妨害的な態度をとったという印象はありませんでした。

 

(2)日本の報告

 日本の報告は、主に京都議定書目標達成計画の内容を中心に、事前に提出されていた文書に沿ったものでした。まず、日本が省エネに関しては世界のトップランナーであるという長い説明があった後、主に以下のようなポイントについて言及していました。

@長期的な視点で対策を行っていくことが必要である

A革新的技術が対策に不可欠である

B対策を進めていくためには、できない人たちに懲罰的になるのではなく、奨励的にやっていくべきである、

C企業が技術移転を進めていくためには、現在のCDMの制度改革が必要

@に関しては長期的視点とはどういうことかという質問があり、短期間だと企業が投資を決定することができないので長期的視点が必要であると答えていました。またBは日本での削減目標の達成が困難なことと、議定書を離脱したアメリカに「配慮」した発言であり、京都議定書の第1回締約国会合COP/MOP1)での遵守制度の議論と、今後アメリカを含めたすべての国が入れる枠組みを意識している発言でした。また、日本とカナダのプレゼンテーションが続けてありましたが、「長期視点」と「今後の枠組みは皆が入れるようなものにするべき」というニュアンスを両国とも報告の中で述べており、置かれている状況が非常に似通っているという印象を受けました。

 

(3)気になった発言集

中国:質疑応答の中で、原発推進政策についてたずねられ、「我々はエネルギーが必要である。他にクリーンエネルギーを調達できる方法があるというなら教えてくれ」と乱暴に言ってのけたこと。他、韓国なども原発を推進していく姿勢をしめし、条約の中で温暖化対策としては「控える」とされている原子力発電が、また新たに息を吹き返しているという気がしました。

ブルガリア:インドが、市場経済移行国(主に東欧諸国)が温室効果ガスを削減できたのは経済が衰退したため、という説明をしたことに対して反論し、「それだけではない。電力市場の自由化など、様々な対策をとったことによって減ったのであり、減った分の50%は努力によるものである」と反論したこと。他に、イギリスもインドに反発し、天然ガスによって減らしたのは3分の1程度で、後は対策によっての削減であると主張し、ドイツもベルリンの壁が崩壊して東西が統合されたことただけが排出が減った要因ではなく、再生可能エネルギーの導入などによるものであると主張していました。

カタール:「クリーン開発メカニズムなどの(炭素を取引できる)京都メカニズムがうまく機能するためには、議定書の強い遵守制度が必要であり、それによって炭素価格を安定化させる必要がある」と唐突に発言したこと。全くそのとおりだと拍手を贈りたくなったが、なぜ産油国のカタールがそのような発言を、脈絡なく発言したのかは謎である。

南アフリカ:具体的な発言はメモに残せていませんが、将来枠組みを話していくための道筋を示したマンデートが必要であるという発言をしていました。このマンデート発言は、メキシコなどの国々にも賛同され、数えただけで6カ国以上が言及し、将来枠組みへの議論への前向きな姿勢が印象に残りました。

 

3.セミナーの議事録について

 昨年のCOP10では、このセミナーの議論を公式の交渉プロセスにつなげていくかどうかということが論点になっていました。結果として、公式な交渉には繋げないということになり、議事録(proceedings)という形でまとめられることが決まりました。セミナーの最後にサウジアラビアが再度、この議事録について確認し、条約事務局長が、何の解釈も加えずに、発表に使用されたプレゼンテーションと質疑応答の内容を客観的にまとめて各国に提出すると述べました。

今回の政府専門家セミナーは、非公式ではあったものの、将来枠組みに関する意見交換が初めて行われた場でした。2005年には始めなければならないと条約で定められているとはいえ、これまで2013年以降の枠組みを話すことに否定的だった国々も含めて意見交換のテーブルにつき、皆で取り組んでいこうという雰囲気が作り出されたことは、今年11月末からカナダで開かれる締約国会合(COP/MOP1)での交渉に期待をもたせるものになったと思います。

 

セミナーの様子、および各国のプレゼンテーションは、以下のサイトで見ることができます。

http://unfccc.int/meetings/seminar/items/3410.php


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